経済は感情で動く―はじめての行動経済学/マッテオ・モッテルリーニ/評価:2.5
本書では、従来の経済学が仮定する人間の合理性に対し疑問を投げかけ、(社会)心理学や脳科学などの知見を取り入れた新しい経済学である「行動経済学」や「神経経済学」を紹介しています。たとえば従来の経済学では、人からもらった1万円も汗水流して働いて得た1万円は同じ価値ですが、我々の感覚ではそうではありません。こうしたことの観測によって従来の経済学のモデルに修正を加えるわけです。
人間が意思決定に際して陥る種々のバイアスを、例題を読者に解かせる形で体感できるようになっており、なかなか楽しく読める本です。
しかし気になるのは、あまりに「経済学プギャー」な視点で書かれているため、この本を読んだ人は「なるほど従来の経済学は役立たずなのだな」と勘違いするのではなかろうか、ということです。僕は、経済のあるべき姿を模索する学問という意味で従来の経済学は依然その価値を失っていないと思います。選択されるべき合理的な決定を知っていながら、感情に流されて非合理的決定をしてしまうのと、望ましい選択肢を知らずに非合理的決定をしてしまうのとでは全然違うと思います。
それと、本書で紹介されている「期待効用理論」は全くの間違いだよ、ということを書きますが、ここからは若干ムツカシイ話になるのでたたみます。
「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ/谷岡一郎/評価:4
著者は「世の中のいわゆる「社会調査」の過半数がゴミである」と断じた上で、こうした「ゴミ」に騙されないよう警鐘を鳴らします。まず官公庁やマスコミ、研究者によって生産されるおかしな「社会調査」を紹介し、「ゴミ」に対する防衛策として、社会調査の手法とその過程で生じる種々のバイアスを説明した上で、こうした「ゴミ」が生まれないような情報を流す側へのチェック体制の構築と、情報を受け取る側のリサーチ・リテラシーの向上を喚起する、といった内容です。
たとえば序章で取りあげられているのは、歴代のアメリカ大統領4人(カーター、レーガン、ニクソン、フォード)の人気調査です。結果は順に35%,22%,20%,10%となっており、新聞は「一番人気はカーター氏」として報じています。しかしこの結果は当たり前なのです。なぜでしょうか?
答えを言ってしまうと、カーターは民主党、他3人は共和党なので、共和党支持者の票は割れるからだそうです。このように、分かってしまえばアホらしいけれども、テレビや新聞の見出しをなんとなく見ているだけで、僕らはこうした「ゴミ」調査に引っかかり、知らず知らずのうちに偏った見方をしている可能性があるわけです。
僕個人の経験を書くと、新聞やテレビも偏った報道(右とか左とか)をしている、ということを知ったのすら高校生の時で、それまではドコも同じこと、しかも正しいことを言っているんだとばかり思っていました。
今回読んで新しく知ってビックリしたのは、官公庁でさえも、施行された法律の実効性のアピールや認知度の向上のために、結論ありきの偏った調査をすることがある、ということです。
情報は鵜呑みにしてはイカンなぁと、当たり前のことを再認識させられた一冊でした。
森田健作新千葉県知事について
政策とかどの党が推薦しててとかその辺の深い事情は知らないのですが、気になった発言がありました。多分リニアモーターカーで成田空港と羽田空港を結ぶことに関してだと思うんですが、「みんなは批判するけど、それをなんとか実現するんだ!」みたいな発言をしていました(正確ではないです)。でも批判には2つのニュアンスがあるでしょう。
1つは「それが望ましいであろうことはみんな了解しているけれども、非現実的でしょ」という批判です。これは例えば「環境問題を食い止める必要がある。なので原始時代の生活に戻る」とか「戦争はよくない。だからイラクから即時撤退する」みたいな意見に対する批判(?)です。ここでは、地球環境や戦争をどうにかしなければしなければならない、という点では恐らく反対する人はいないはずです。
もう1つは「それは望ましくないので実現すべきでないよ」という批判です。それで、リニアモーターカーの件については恐らく後者の批判だと思うのです。彼はそれに対して、自分が預言者にでもなったかのような、政策実現は唯一絶対の正義で、その実現は使命であるみたいな、はじめから議論を放棄している印象を受けました。
個人的に僕は彼が嫌いなんで、そういう色眼鏡で見てる部分は大いにあります。ご注意を。